2012年4月4日水曜日

患者さまへ | 人工関節センター 痛みの少ない人工関節手術〜MIS(最小侵襲手術)〜 | 岡山労災病院


患者さまへ

5-1  人工関節置換術とは
当院で、行なっています人工関節は、股関節・膝関節です。骨と骨とがつながっている動きのある部位を関節といいますが、通常この関節を構成する骨表面には、神経の存在しない、軟骨というものが存在します。軟骨は、いわばクッションの役目をしていると考えて頂ければよく、軟骨が十分に機能しているうちは、軟骨同士が擦れあっても神経が存在しないのですから、人は痛みを感じません。ところが、加齢や怪我、関節の病気により軟骨が変性、磨耗して機能しなくなりますと骨同士の摩擦が生じ、やがては関節の変形、痛みとして現れてきます。軟骨は、構造上複雑で繊細な細胞ですから、現在の医学では元の形に復元することは不可能です。
人工関節置換術とは、薬物・理学療法などの保存療法が無効、もしくは関節温存手術が適応とならない方の最終手段として位置付けられる手術です。変形した骨や軟骨を取り除き、金属やポリエチレンなどの人工物に置き換えます。神経の存在しない人工物どうしで動いているのですから、人工関節手術は他の治療方法に比べて原則、短期間で痛みをとる効果に優れた手術方法といえます。
 問題点は、人工物であるが故の耐用年数にあります。一般に、その耐用年数は、15年から20年といわれています。そのため、今までは60歳以上を対象とした手術とされてきました。人間の平均寿命も延びてきてはいますが、人工関節の寿命も材質の加工技術や手術手技の進歩、インプラントデザインの改良や選択幅の拡大により、20年以上の超長期成績で語られる時代となってきています。本邦でも、欧米のように質の高い生活を望む傾向になってきているため、40~50歳台でも、他に効果的な治療方法がない場合は人工関節がとりうる選択肢の1つとして行なわれるようになってきています。


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5-2 人工股関節置換術
 股関節は、骨盤と大腿骨をつなぐ非常に大きな動きをする臼状関節です。からだの一番中心にある大関節ですので、この部位に障害を生じると歩くことのみならず、腰や膝も被害者となり腰痛や膝関節痛、変形の原因となります。人工股関節置換術の対象となる病気は、変形性股関節症、大腿骨骨頭壊死、関節リウマチなどです。症状としては、変形した骨盤臼蓋と大腿骨骨頭の骨どうしの直接の衝突や、骨破壊によって生じる足の付け根から太腿前面にかけての痛みや可動域制限(例えば、靴下がはきにくいとか、胡坐がかきにくいなど)があげられます。このような症状を有するかたで、日常生活にお困りのかた、もしくは薬物療法や運動療法で改善の見られない場合には人工股関節置換術の適応となります。
 人工股関節置換術は、形の変形してしまった臼蓋、大腿骨骨頭などをすべて形成・切除します。形成した骨盤には受け皿としてカップ(素材は、チタン合金やポリエチレン)を、大腿骨にはステム(素材はチタン合金)が骨に固定されます。この2つを結びつけて、動く場所を関節面といい、骨頭ボールがその役目を担います。現在では、この関節面は、ポリエチレンと金属(コバルトクロム合金)、セラミックとセラミック、金属と金属の3種類が使用されていますが、神経の存在しない人工素材で動いている訳ですから、人は痛みを感じることが殆どないのです。また、カップやステムの骨への固定様式は、セメントを介して骨への鋲着をはかる方法と、セメントを使用せずに直接金属を骨へ咬みこませる方法の2通りが存在します� ��現在、日本での割合はセメント使用が3割、セメント不使用が7割といったところです。
 当院での人工股関節置換術の特徴・治療指針は患者様の年齢、活動性、骨質の3点を考慮して使用する人工関節の材質、固定方法を選択しています。即ち、比較的年齢が若く、活動性のある方では、金属と金属(コバルトクロム合金)で動き、セメントを使用せず、大きな骨頭ボールを用いた人工股関節を第一選択としています。金属同士のかみ合わせですから、すり減りが少ないのが利点ですが、この大骨頭を用いた人工股関節はまだ8年の結果しか得られていませんので、慎重に使用すべきものと考えています。逆に、高齢者で骨が非常に弱い人に対しては、大腿骨側のみをセメントで固定するハイブリッド人工股関節を行い、確実な初期安定性を得て早くから安心して歩行訓練に入っていただきます。一般には8~9割の方に、関� ��面にはポリエチレンと金属、固定方法としてはセメントを使用しない人工股関節置換術がおこなわれます。このポリエチレンは、無酸素下に電子ビームを照射してすり減りにくくした架橋結合ポリエチレンといわれるもので、20年以上の超長期耐久性が期待されています。


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【低侵襲人工股関節置換術:MIS-THA】
MIS人工股関節手術とは、10cm程度の皮切で人工股関節を設置する手術手技です。1998年、アメリカにおいて発表され、本邦でも行われてきましたMIS-THAは皮切のみの大きさを強調したもので、実際の手術操作は、従来行われてきた手技(筋肉切離型)と殆ど変わりがありませんでした。現在では、この手技はMini-Incision THA(小切開人工股関節置換術)といわれ、MIS-THAとは区別される傾向にあります。2004年、BertinとRottingerが筋肉を切らないで、人工股関節を設置する方法(筋肉温存型)を報告し、一般には術後の疼痛の軽減や早期回復がうたい文句となっていました。この方法は、本邦でもそれなりに普及はしてきましたが、そのとっつきにくさから爆発� ��な普及にいたっておらず、また機能修復の面でも従来のやり方と比べ優れているという明らかなエビデンスは得られておりません。
当院では、これまで同様、適応のある患者さまに対しては、手技的にはこのMIS-THAを提供いこうと考えております。しかし、手術手技ももちろんではありますが、術前ケアーから、手術、看護、リハビリテーション、退院までを統括して患者さまに満足していただけることが、心身ともに早期回復につながるとの考えのもと、真の意味での"低侵襲"を指向したいと思っています。


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5-3  人工膝関節置換術
膝関節は、人の体の中で一番大きな関節であり、大腿骨(ふとももの骨)の下端、脛骨(すねの骨)の上端、膝蓋骨(皿の骨)の3つの骨から関節が構成されています。この関節には、歩行時には体重の約3倍、正座や階段の昇り降りでは約5~6倍の力がかかります。
膝関節置換術の対象となる病気には、変形性膝関節症、リウマチ性膝関節症、大腿骨内顆骨壊死などがあり、いずれも何らかの原因により関節軟骨が破壊され、長年の間に骨の変形を生じてしまう疾患です。はじめのうちは、動き始め、或いは坂道や階段などの関節に多くの負担がかかってしまう状況下で痛みが生じます。病気が進行してきますと痛みが持続性となり、長く歩けなかったり、徐々に関節の動きが低下してきますので正座や胡坐ができないといった動作制限がでてきます。長年のうちには、骨の変形を生じ、9割以上の方が、いわゆるO脚を呈するようになってきます。先に述べました、股関節同様、こうした膝の変形は、腰痛の原因となったり、足関節にも影響を及ぼし、足首の変形、痛みにつながります。 膝の痛みは、膝蓋骨周辺が中心であったり、膝の内側であったり、更には膝の裏が痛いと言われる方もおられます。治療は、痛み止めなどの薬物療法、リハビリ(運動療法・物理療法)、装具療法などの保存療法がまず試されますがそれでも痛みが持続し、日常生活に支障のある方は、人工膝関節置換術が必要となる場合があります。
人工膝関節置換術は、1970年代から普及してきた手術方法で、人工股関節と同様骨の変形したところを削り取り、大腿骨側には、コバルトクロム合金、脛骨側にはチタン合金からできた金属をはめこみます。この金属は、骨セメントを使って骨に錨着させます。股関節同様、この金属の間に、人工の軟骨ともいえる超高分子ポリエチレン(強化プラスチックと考えればよいでしょう)が挟まって関節を形造ります。人工膝関節による、恩恵は歩行時の痛みが劇的に改善されるのはもちろんですが、そのほかに、足の格好が正常に戻りますので、腰や足首への負担が軽減して痛みが軽くなることが挙げられます。
 人工膝関節置換術では、現在10年~15年経っても90%以上の患者様がやり直しの手術を必要とすることなく生活されています。3年以内の短期期間においてのやり直しの原因の殆どが、細菌感染にあります。当院における人工膝関節置換術においては、1)軟部バランスに重点を置いた、正確な設置、確実な手術 2)術前から退院後まで、患者指導を含めた徹底した感染対策の実施。この2点に重点に置いた治療を行なっていきたいと考えています。

5-4  治療の流れ
【受診当日】
①・病状説明・手術の決定
外来で病状説明の後診断に、手術の必要性の有無の話し合いをします。

②術前の全身スクリーニング
レントゲン、心電図、肺機能検査、血液検査、鼻腔培養を行ないます。
③手術・入院申し込み
手術および手術日が決まりますと、外来看護師が手術前の説明を行ないます。


【受診~入院】
④術前準備(自己血採血、他科受診)
十分な血液量のある方では、手術2~4週前にあらかじめご自身の血液をとって手術まで病院に保管しておき、手術後にこの血液を輸血致します。こうすることで、術後感染症(肝炎など)や静脈血栓塞栓症の発生率を抑えることができます。貯めておく量は、人工股関節では、1~2回、1回につき約400gの血液を採取致します。人工膝関節では1回行ないます。
また、心臓疾患・糖尿病など手術に際して影響およぼす疾患をお持ちの方は、医師が必要と判断した場合は、術前に専門医を受診して頂くことがあります。

【入院~退院】
⑤入院
手術2日前に入院します。主治医から手術説明があります。

⑥手術

⑦リハビリ
手術後2日目から、機能訓練室でリハビリが始まります。手術後、2週経って抜糸が済みますと、回復期病棟に移りリハビリを続けて頂くことがあります。

⑧退院
日常生活に不自由のない状態になれば退院となります。手術後約3週間です。

【退院~】
退院後、約2週、4週、6週、3ヶ月、6ヶ月目に外来受診していただきます。以後は1年に1~2回の外来通院となります。その都度、外来主治医が、通院日を予約致します。術後の外来受診は非常に大切です。人工関節は、あなたの関節に不具合が生じていても症状に乏しい場合があります。調子が良いからといって、外来受診を疎かにしない様にしてください。

5-5  手術実績
2009年 1月~12月
・当院において、昨年施行された人工関節手術のうち
人工股関節   80例、人工膝関節置換術  51例を門田医師が執刀し、
・前職津山中央病院整形外科において
人工股関節置換術 67例
人工膝関節置換術 150例が施行されている。                     

人工関節に関する質問

Q1.入院費用は?
人工関節置換術は、保険の適用される手術ですが、3割負担の場合では60~75万円と高額になります。しかし、自己負担金額が高額となる手術ゆえに、高額療養費制度を利用することができます。2007年4月以降、人工関節手術には、この制度が自然導入されたため、自己負担限度額のみの支払いで済むようになりました。概ね、所得により多少の開きはありますが、70歳未満の方で約8~10万円程度、70歳以上の方では約4.5万円程度です。

Q2.人工関節はいつまで持ちますか?
最近の人工関節は、デザイン、材質、表面加工の工夫、あるいは技術の進歩により人工股関節では20年以上、人工膝関節では15年で約9割の方が再手術をすることなく生活可能といわれています。しかし、この耐久性向上のためには、医師を含めた人工関節を提供する側のみならず、患者サイドの理解と協力があってはじめて達成されるものといえます。


Q3.人工関節の手術時期は?
はじめて、人工関節手術を考えられている方は、手術のタイミングはご自身が決定されれば良いでしょう。すなわち、痛みにより日常生活に本当に不自由さを感じた時、ご自身の生活環境や人生設計を考慮に入れてそのタイミングを計ればよいと思われます。ただし、高齢者の場合は、年だからという理由で躊躇していますと、身体能力や意欲の低下、腰痛など他の関節障害、あるいは内臓疾患の悪化により、人工関節の恩恵に預かれないばかりか、手術という土俵にさえあがることができなくなります。まさに、"木をみて森をみず"の状態になることがあり、手術のタイミングは非常に大切です。一方、人工関節にゆるみなどの不具合が生じてやり直しの手術が必要な場合、手術の決定権は医師サイドが優先されます。人工関節の不具� ��は"静かなる進行"をとるものですから、患者様は痛みがさほどなく、また、さしたる異常も感じないので手術を忌避されるでしょう。しかし、放置しておくと、自分の骨がなくなり、手術は厄介となります。厄介な手術が、長持ちするはずがありません。

Q4.痛みはとれますか?
人工股関節は、人工膝関節よりも痛みが早くとれる(早く慣れる)と思われます。人工股関節では、通常1.5~2ヶ月程度で痛みはかなり軽減します。ただし、靴下をはいたり、爪を切ったりといった動作がしやすくなるのは3ヶ月~半年後くらいからです。一方、人工膝関節では、股関節の倍の3~4ヶ月かかると思ってください。浅い関節ですので、この期間は、膝が腫れたり、熱をもったり、つっぱった感じが続きます。これは、誰しも通過する過程ですので心配はありません。一般に膝関節では、1~2割の方に何らかの痛みが残るといわれています(ただし、歩くときの痛みは劇的に改善されます)。

Q5.手術の合併症は?
さまざまな、合併症がありますが私のデータとともに列記致します。

1.静脈血栓塞栓症
 いわゆる、エコノミー症候群といわれるもので、手術操作や長時間足をじっとしていると血の塊(血栓)が足の静脈にできます。これ自体は、症状がなく問題ない(無症候性血栓症)のですが肺に飛んでいって詰まりますと(肺塞栓)ショックや心停止となる場合があります。人工股関節で4.2%、人工膝関節で8.7%いずれも無症候性血栓症で、肺塞栓症はありません。

2.感染
 人工関節手術に細菌感染が生じた場合、治療は厄介なものとなり、また患者さまサイドにも多大の身体的・精神的苦痛を与えることになります。感染は、手術後すぐおこるものと考えられている方が多いですが、実は手術後3ヶ月以上経って起こる遅発感染の方が頻度的に多く見られます。この原因として、身体の他の部位からの血行性感染が言われています。人の身体は細菌だらけです。肺炎や尿路感染、虫歯や巻き爪や水虫、シップかぶれや足の引っかき傷から、菌が関節にとんでいったり、蜂窩織炎になることがあります。日頃から、体調管理に留意し、先に述べたことは常に頭にいれ一刻も早く治療しましょう。 頻度は、人工股関節は0%、人工膝関節は1.2%です。


3.脱臼
 人工股関節で問題となります。通常の関節は、筋肉や関節包、靭帯といった組織で守られているため、簡単に外れるといったことがありません。しかし、人工股関節を設置するときには、これらを一部剥がさねばなりません。手術直後には、この鎧が無くなっている訳ですから不用意な姿勢をとりますと、外れる(脱臼)といったことが起こる訳です。先に述べました筋非切離型の人工股関節(MIS-THA)は、筋肉を傷めない故に術後脱臼頻度が低いと言われています。この脱臼は、患者様がよく動けだして油断のでてくる1~3ヶ月位に多く見られます。私の調査では、平均術後27日目に起こっています。入れ替えの場合、覆っている筋肉などの鎧の状態が悪いものですから、初回時に比べて脱臼頻度は高くなります。自身の� ��ータでは初回人工股関節では0.6%、再置換術では11%に起こっています。



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