第23章 薬物乱用と脊髄損傷
◆ 薬物乱用とは何か
薬物乱用は、何百万という人が関与する大きな社会的・健康的な問題であり、脊髄損傷を考える時は避けて通ることができない。薬物乱用は、外傷を起こすような事故の主な原因として知られている。薬物乱用者は、脊髄損傷後に合併症を起こしやすく、障害に適応するのも遅れがちである。脊髄損傷者は、今後長い間にわたって対処しなければならない障害を一時的に忘れ去るために薬物を乱用しがちである。
薬物乱用とは何か。それは、気分や思考に影響するような薬物、アルコール(酒類)などを、健康に害を及ぼすような使い方をすることである。これらの薬物は、処方箋薬や法律で禁じられている薬物(違法薬物)も含む。乱用される処方箋薬には、鎮痛薬(麻薬性のモ ルヒネ、オキシコドン、コデイン、タイレノール♯3、パーコセット、鎮痙薬(バリウム)、抗不安薬(キサナックス、アタイバン)、睡眠薬などが代表的なものである。違法薬物としては、コカイン、ヘロイン、治療には用いないその他の薬物などがある。マリファナは、気分の改善に使用されるが、痙縮が起こる有害作用があり、その有用性については論議が交わされている。使用する目的がどうであれ、これらの薬物の過剰な使用、不適切な使用は、脊髄損傷者にとって重篤な結果をもたらす。
脊髄損傷をもたらすような事故の少なくとも半分は、アルコールや薬物の使用が原因である。
脊髄損傷者の約半数が処方箋薬を乱用する危険性に直面している。実際、25%の人が、1回あるいは数回の処方箋薬の不正使用を経 験している。
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受傷以前から薬物乱用の問題を抱えていた場合は、乱用を続け、問題が悪化する傾向にある。
◆ 薬物乱用とリハビリテーション
脊髄損傷は、患者にとっても、その家族にとっても破滅的な事件である。生活はいろいろな面で制約をうけ、変化を余儀なくされる。リハビリテーションと障害に適応することは容易ではなく、大変な努力を必要とし、新しい技術や能力の取得を必要とする。リハビリは、予想以上に恐怖心を伴い、疲労するものである。多くの患者にとってアルコールや薬物は、リハビリから逃げ出すための魔の誘惑である。
脊髄損傷の現実は、たいへん厳しいものである。アルコールや薬物は、単に一時しのぎの手段にしかならないということを十分に理解すべきである。脊髄損傷者が直面する問題は非常に難しいので、薬物乱用により、さらに問題を難しくするようなことがあ� �てはならない。
脊髄損傷後に薬物乱用がやめられず、受傷以前のライフスタイルに戻る人もいる。脊髄損傷の原因がアルコールや薬物によるものなら、元の悪い習慣やライフスタイルに戻ってしまう危険性が非常に高い。脊髄損傷後も薬物乱用を続け、問題を悪化させる傾向にある。しかし、「更生した」あるいは「教訓になった」と自分を見つめ直していたら、すばらしいことだ。多くの人は、命を脅かすような経験をした後には更正するものだ。
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前進し続けるために、障害になる魔の誘惑が、多いことに気をつけなければならない。あなたの友人や家族が、日常的に飲酒をし、薬物を飲んでいることもあろう。受傷以前の生活に戻りたい誘惑もあるだろう。誰かがアルコールや薬物を使用している場に、あなたが居合わせた時の対処の方法を考えておく必要があるだろう。良い生活をしようという決心をサポートしてくれるような方法やプログラムについて、医療サービス提供者と相談してみよう。
脊髄損傷後に、薬物乱用の危険性がほとんどない人がいる。そのような人は、アルコールに関する問題はなかったか、あるいは、楽しみとして薬物を使用したことがない人だろう。「ハイな気� �」を望んだことはないであろう。こうした人は薬物乱用の心配はない。 残念なことに、病院で脊髄損傷者に合法的に使われている薬物の多くが、薬物乱用に使われる可能性がある。多くの患者は、痛み止め、抗不安薬、睡眠薬などの処方箋薬を、決められた量より多く飲んでしまうという問題が生じている。これらの薬物の使用に際しては、医者によく相談して適切な投与計画をたてるようにしよう。アルコールとともに、これらの薬物を使用することは危険であることを特に注意していただきたい。
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脊髄損傷患者にとってアルコールの飲みすぎ、処方箋薬の飲む量を増やすこと、違法薬物の使用は特に危険である。皮膚潰瘍、尿路感染症、栄養不良、便秘などの合併症も薬物乱用患者に多くみられる症状である。うつ病、やる気の欠如、集中力散漫などの心理面での問題も薬物乱用患者に多くみられる。 脊髄損傷に適応するには、注意力、技能、能力のすべてを総動員する必要がある。一時的に楽になるからといって、薬物依存という新たな問題を余計に抱え込む余裕などないのである。アルコールや一部の処方箋薬は中枢神経を抑制する。それらの薬物は、体や頭の働きを鈍くし、ひどい場合は、うつ状態を起こす場合もある。
あなたは薬物乱� ��者か 医学の専門雑誌には、薬物乱用者かどうかを判定する様々な方法、複雑な判定基準があふれている。簡便で有用な方法は、CAGE法という判定方法である。CAGE質問紙法は、アルコール依存症を判定するのに、しばしば用いられている。また、処方箋薬や違法薬物依存の判定にも用いられる。
- 飲酒、薬物の使用を減らそうと(Cut down)試みたことがありますか?
- 飲酒、薬物の使用に関する他人からの批判を不快に(Annoyed)感じたことがありますか?
- 飲酒、薬物の使用に罪(Guilt)の意識を感じたことがありますか?
- 飲酒、薬物を朝の目覚まし(Eye-opener)用の飲み物として使用したことがありますか?
これらの質問の答に「イエス」が2つ以上ある場合は、「アルコール依存や薬物乱用の可能性あり」である。この方法で「問題あり」と判定されたが、どうも納得がいかないという場合は、別の方法を試みても良いだろう。ジョン・デ・ミランダ氏は、薬物依存の有無を判定するのに、「飲酒、薬物の使用が、何か悪い影響を与えましたか?」と質問することが有効であると述べた(1992年)。薬物乱用による悪影響は、人間関係、仕事、レクリエーション、家計、心身の健康など生活上のいかなる面にも及ぶものである。言い換えれば、もし飲酒、薬物の使用により、何らかの問題が生じていれば、薬物乱用である。
◆ 役立つ情報の活用
薬物乱用で困っている人のために、巻末に情報リストを示し た。医療関係者に相談して、あなたに合った最善の専門家を紹介してもらうのもよい。 薬物乱用の問題に役立つ情報には様々なものがある。しかし、あなたが行動を起こさなければ何も始まらない。自分の振る舞いを謙虚に見つめ直してみよう。酒を適量飲み、処方箋薬を適正に服用すると決意するのはあなた自身である。勇気ある決断は、リハビリを続けていくなかで非常に大切なことである。
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